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フル墨攻

「少しまとまった思いつき」を書きます

KIT (Kid Is Toy) 感想

小関さんが書いた星新一賞入選作が公開されたので、読んでみました&感想を書いてみました。

[KIT (Kid Is Toy) | 辺境社会研究室](http://youkoseki.tumblr.com/post/81285523701/kit)

まず文章がこなれていて読みやすい。そして「中身ではなく外見から作られた」というところも面白い。
テクノロジーの普及とその影響が短い話のなかに細かく敷き詰められていて、このあたりの目配りは作者ならではのものなんだろうなあと思った。文章や構成はたぶん平均的な水準をクリアしていると思うので、あとは(SFなら)インパクトのあるアイデアがあれば公募賞などでもっといいところまでいけるかも、と思いました*1

すこし難を挙げれば

  1. 人物それぞれの語り口にあまり変化がない
  2. 構成がやや平板

というあたり。
これらの結果としてすこし中だるみというか「あれ? この調子で続くのかな」という疑問を感じました。

もちろんこれは好みの問題なんだけれど、2については読んでいる途中で

  • それぞれの語りのなかに徐々に現れてくる変化→目立たないけれども、明らかな社会の変異

という落差へのつながりを読み手のこちらが期待してしまうせいなのでしょう。
もちろん本作の終わり方はあからさまなディストピア落ちなどよりはずっといいのですが。

あるいは中盤あたりでもうすこし「はじけた展開」あるいは「いかれたエピソード(キット狂騒曲的な話)」が挟まっていてもよかったのかなぁ、とも思いました。まぁあんまりクレージーな話を入れると、全体のトーンが乱れてよくないかもしれないし、「理系文学」ぽくないかもしれない*2

ただこういった語り口や構成も、この話を「世の中総キット化=フラット化」という捉え方をすればそれほど違和感のあることではない*3し、むしろ理にかなっているとも思えるわけですが。
全体の調子をひとつのトーンにうまくまとめている、というのは作者の力量なわけですし、今後の期待とかも込めて感想を書いてみました。

というかこういうの、どうも書くの苦手というかうまく書けない気がする。

余談

以下はたんにテクニックの話。

上記の「語りのなかに徐々に現れてくる変化」というのはたとえば

  • 読み手には意味のわからない、ある言葉(キーワード)が使われる→徐々に使われ方が増え、その周辺情報が増える→意味がわかってくる

というようなもので、この作品と似たような手紙形式、日記形式などのカテゴリでもよく使われる手法です*4

この言葉というのは

  • なんらかの造語(状況や動詞など)
  • 事件を現す言葉(911とか311などの日付によるもの、地名など)

などが適していて、最初は唐突に、説明もなく登場するものの、読み進めるうちにだんだんとわかってくる→恐怖や興味を亢進させる、という効果があります。

ただこの手法を使うにはそれなりの長さが必要となってくるので、たとえば今回の賞のような長さ(400字詰で25枚以内)となるとそこそこテクニックも必要となるかもしれません。

[日経「星新一賞」公式ウェブサイト](http://hoshiaward.nikkei.co.jp/)

あと最近の読み手というのは「読み解く」ことに慣れていないので、この手法を使うと「〜という言葉がよくわからなかった」とか「意味がわからなくてやめた」みたいなことになるおそれもありますが。
まぁふつうに小説が読めるひとなら問題ないんでしょうけど。

*1:文学賞の下読みの経験から。

*2:そもそもなにが「理系文学」なのか、よくわかってませんが。

*3:もしそうであればより語り口がフラットであるとわかるような文章上のしかけは必要かもしれない。

*4:ミステリなどで出てくるダイイングメッセージや「壁の血文字」の類と異なり、読み手にその言葉の重要性がよくわからないところがポイント。